1. はじめに ― 昔からの「毛布の位置」問題
「毛布は羽毛布団の上に掛けるの? それとも下に掛けるの?」
この問いかけは、テレビや雑誌、インターネットなどでたびたび取り上げられてきました。お客様からも「正解が分からない」「人によって言うことが違う」とよくご相談をいただきます。
実はこの「毛布の上・下問題」、昔の日本ではほとんど話題にならなかったのですよね。
なぜなら、当たり前のように**「毛布=下に掛けるもの」**として使われていたからです。では、なぜ現代になって急に論争の的となったのでしょうか。その背景をひも解きながら、当店としての考えを整理していきます。
2. 毛布とタオルケット ― 実は「同じ仲間」だった
まず大前提として、「毛布」と「タオルケット」はまったく別の寝具だと考える方が多いのですが、実はもともと同じルーツを持つ“ケット”仲間なのです。
-
夏用:タオルケット(現在は綿・ウール・シルク素材あり)
綿パイル生地で作られており、吸湿性に優れ、汗をしっかり吸ってくれる。暑い夏に最適。 -
冬用:毛布(現在は全ての素材あります)
綿やウールを起毛加工した生地で、保温性と吸湿発散性に優れる。寒い冬にぴったり。
つまり、季節に応じて「生地の厚みや加工を変えたケット」が使われていたにすぎません。タオルケット=夏用毛布、毛布=冬用ケット、と言っても良いくらいです。
本来は「肌に近い位置で寝床内環境(温度・湿度)を整える役割」を持つのがケット類。その基本を知っていると、なぜ毛布を下に掛けた方が良いのかが自然と見えてきます。
3. 「毛布は上?下?」問題はいつから始まったのか?
では、なぜ現代になって「毛布の位置問題」が取り沙汰されるようになったのでしょうか。大きなきっかけは、1990年代後半から2000年代にかけての“化学繊維毛布”の普及にあります。
天然素材毛布の時代
昭和の頃まで主流だった毛布は、綿やウール、シルクなどの天然素材製でした。これらは吸湿性・発散性に優れ、寝汗をうまく調整してくれるため、「羽毛布団の下に掛ける」のが当たり前でした。快適さの面でも理にかなっていたのです。
化学繊維毛布の台頭
ところが時代が進み、アクリルやポリエステルなどを使った毛布が安価で大量に出回ります。ふわふわして見た目も豪華、軽くて手入れも簡単。こうしたメリットから一気に人気が広まりました。
しかし、化学繊維は天然繊維に比べて吸湿性が低いため、体に直接掛けるとムレやすく、不快になりがちでした。そのため「下に掛けるよりも上に掛けた方が快適」という考え方が広がり、メディアも「毛布は上に掛けましょう」と紹介するようになったのです。これが、「毛布の位置」論争が生まれた大きな転機でした。※1静電気は起きにくい可能性です。
評価基準 | 綿 | ウール | シルク | アクリル | ポリエステル |
吸湿性 | ◎ | ◎ | 〇 | △ | × |
放湿性 | ◎ | ◎ | ◎ | △ | × |
保温力 | 〇 | ◎ | 〇 | ◎ | ◎ |
通気性 | ◎ | 〇 | ◎ | △ | × |
静電気※1 | 少ない | 少ない | 少ない | 多い | 多い |
肌触り | 〇 | 〇 | ◎ | 〇 | ◎ |
耐久性 | ◎ | ◎ | △ | 〇 | △ |
軽さ | 普通 | 重い | 普通 | 軽い | 軽い |
価格 | 普通 | 高い | 高い | 普通 | 安い |
季節 | 一年中 | 一年中 | 一年中 | 冬 | 冬 |
羽毛布団 との相性 |
◎(下) | ◎(下) | ◎(下) | △(上) | △(上) |
アレルギー 対応 |
◎ | △ | ◎ | △ | × |
洗濯 | ◎ | △ | △ | ◎ | ◎ |
環境への 優しさ |
◎ | ◎ | ◎ | △ | × |
長持ち度 | ◎ | 〇 | △ | 〇 | △ |
肌ざわり | 〇 | 〇 | ◎ | 〇 | ◎ |
高級感 | △ | 〇 | ◎ | △ | △ |
毛羽立ち (ホコリ) |
〇 | 〇 | 〇 | △ | × |
防臭性 | ◎ | ◎ | ◎ | △ | △ |
4. 当店が「下に掛ける」ことを推奨する理由
当店としては、やはり基本に立ち返り、毛布は羽毛布団の下に掛けることをおすすめしています。その理由は大きく5つあります。
-
寝床内気象を守れる
人は一晩にコップ1杯分の汗をかきます。羽毛布団を直接掛けると、暑くなりすぎたり、逆に冷気が入り込んだりして安定しません。毛布(天然素材)を間に入れることで、湿度・温度が整いやすく、快適な「寝床内気象」が保たれます。 -
寝汗をしっかり吸収
綿やウールの毛布は汗を吸い取り、外へ逃がしてくれます。羽毛布団を清潔に保つためにも、まず汗を受け止める毛布を下に掛けるのが合理的です。 -
隙間風の防止
羽毛布団だけだと、体と布団の間にすき間ができやすく、冷たい空気が入ってきて寒くなることがあります。毛布を下に入れることで隙間を埋め、保温性が高まります。 -
羽毛布団の汚れ防止
毛布を羽毛布団の直下に入れることで、皮脂や汗による汚れが羽毛布団に直接つくのを防げます。結果として布団が長持ちします。 - カバーの洗う頻度が減る
寝汗などは毛布がガードしてくれるので、カバーが汚れにくくなります。洗う頻度が減れば家事が少し楽になると思いますよ。
5. 上に掛けても良いケース
もちろん「絶対に上に掛けてはいけない」というわけではありません。羽毛布団が古くなり、保温力が落ちてしまった場合には、上に毛布を掛けることで熱を逃がしにくくできます。また、羽毛布団が軽すぎてズレやすい場合にも、重みをプラスするために上掛けとして毛布を使うのは一つの方法です。
ただし、この場合は新しい毛布を買い足す必要はなく、古くなった毛布で十分です。「良い毛布は下に、古い毛布は上に」という使い分けをすると無駄がありません。
6. まとめ
最後までご覧いただきありがとうございました。
毛布は本来、タオルケットと同じく「ケット」として肌に近い位置で使われる寝具でした。昔は天然素材が主流で迷いはありませんでしたが、化学繊維毛布の登場によって「上?下?」論争が生まれたのです。
当店の考えはシンプルです。
基本は「毛布は下に掛ける」。そして天然素材の毛布を選ぶ。
これが一番、快適で健康的な眠りにつながります。
寝具は流行や情報に左右されやすいものですが、大切なのは「人の体と自然素材が持つ力をどう活かすか」です。ぜひご家庭でも、毛布の位置を見直してみてください。